2021.05.15

黒川紀章さん設計の「中銀カプセルタワービル」。
敷地が売却が決まったというので、なくなる前に
見に行ってきました。メタボリズムの代表的建物、
近未来を感じさせる名建築がなくなるのは残念

数日前、新橋の病院へいった帰りに、銀座8丁目にある「中銀カプセルタワービル」を、ふらりと見に行って来ました。建築家の故黒川紀章さんが設計し、東京の名建築のひとつして知られる建物ですが、4月21日の朝日新聞に、「敷地の売却が決まり、住人の退去が始まっている」という記事が出ていたのを読んで以来気になって、今後どうなるかはわかりませんが、とにかく、もうひと目、見ておきたかったからです。

 1972年(昭和47年)に竣工されたこのビルは、世界で初めて実用化されたカプセル型の集合住宅。黒川氏の初期の代表作であるとともに、社会の変化に合わせて建築や都市が変わる「メタボリズム」の代表的な作品としても知られます。約10㎡の四角いカプセルに直径130cmの丸い窓。140室はそれぞれの部屋の独立性がとても高く、部屋(カプセル)ごとに交換することもできる設計になっていますが、今に至るまで一度も交換されたことはないそうです。でも、細胞の集合体のような特異な外観は、ユニット製のマンションであることの機能をダイレクトに表現し、そのメタボリズムの設計思想を明確に表現したデザイン性は当時から高く評価されていました。

 ビジネスマンのセカンドハウス&オフィスとして想定されたカプセルの内装は、ベッド、エアコン、冷蔵庫、テレビ、ラジオ、電話、テープレコーダー、収納などがつくり付けで完備されていますが、キッチンや洗濯機置き場はないそう。これは、食事は外で済ませるが前提。洗濯はコンシェルジュ頼むことができたから。

 最近の入居者は、建築家、編集者、映画プロジューサー、DJ、ベンチャー企業の経営者・・・と多彩。自分でためたアルバイト代でマンスリー契約をして寝泊まりしている高校生もいるそう。「空飛ぶ円盤に搭乗している気分。外とは別の時間の流れを感じられ、ここにいるのがとても好き」「どのカプセルも同じ外観で画一的。だからこそ住む人の違いが際立つ。建物への思いもばらばらで多様性があって面白い」(朝日新聞より)。140のカプセル(部屋)には140の物語があるのです。

 「ゆくゆくは世界遺産に」という夢をもっている入居者もいますが、コロナ禍がそんな夢を砕いた、と言います。昨夏に東京五輪が開かれていれば、翌9月に建築の国際学術が開かれ、このビルも紹介されて保存活動の動きが加速する可能性もあったそうだが、地主で大多数の部屋を所有する不動産会社は、さらなる老朽化を懸念し、今年3月に敷地を売却する決議をまとめてしまったそう。新たな入居者はもう受け付けていません。

 首都高で銀座方面に向かうとき、高層ビル群のなかで異彩を放ち、宇宙船のように見え、SFの世界観を醸し出しているこの建物を見ることができなくなるのかと思うと、とても悲しい気持ちになります。黒川紀章さんの作品が東京からひとつなくなるのも残念です。