2021.10.11

モダニズム建築の巨匠・前川国男氏が手がけた
「東京海上日動ビル」が建て替えられることに。
新ビルの設計は、なんと世界的イタリア人建築家、
あのレンゾ・ピアノ氏!2028年度の竣工が楽しみ

9月最後の日、東京駅の前にある「東京海上日動ビル」を解体し、建て替えるというニュースを聞いて、私、2度ビックリしました。皆さんはどう感じましたか?

  えっ!あのビルはモダニズム建築の巨匠、前川国男氏が手がけた建築物。前川氏といえば、フランスでル・コルビュジエに師事し、帰国してからはアントニオ・レイモンドの元で学び、モダニズム建築の旗手として第二次世界大戦後の日本建築界を牽引した偉大な建築家。前川建築事務所から、かの丹下健三氏や木村俊彦氏が輩出しています。そんな前川氏が1974年に完成させた「東京海上日動ビル」。まだ築50年にもならないのに、本当に建て替えてしまうのでしょうか? これが1度目の、ビックリ!

  そして、2度目のビックリ!は、新ビルの設計をレンゾ・ピアノ氏が担うと発表されたことです。ピアノ氏は誰もが知る、世界的なイタリア人建築家。1998年に建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞しています。1937年生まれですから、今年84歳。まだまだ頑張っているのですね。

  30年以上前、北イタリアを3週間旅行したとき、ジェノヴァにも行きましたが、それは、当時は日本ではあまり一般的でなかったパスタ、ペースト・ジェノベーゼを食べたかったことと、憧れの建築家レンゾ・ピアノ氏の建築事務所がジェノヴァにある、と聞いたからでした。ホテルの人に「ピアノ氏の事務所はどの辺にあるのかしら?」と聞いたら、海を見下ろす山腹の段丘を指さして、「あの辺だよ」と教えてくれました。ジェノヴァで建築業を営む家に生まれたピアノ氏はフィレンツェ大学を経て、ミラノ工科大学を卒業しましたが、建築やデザインの中心地・ミラノではなく、故郷のジェノヴァに「レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ」を設立しました。

  レンゾ・ピアノ氏は、世界各国にさまざまな魅力的な建築物を手がけていますが、私が印象深いのは、パリの「ポンピドゥ・センター」と大阪の「関西国際空港旅客ターミナルビル」です。リチャード・ロジャース氏と共同設計で建てられた複合文化施設「ポンピドゥ・センター」は、本来隠そうとする構造や設備などが外部にむき出しになった工場のような建物でとても斬新なデザイン。チューブ状のエスカレーターやカラフルなパイプがとても特徴的でパリの古い街並みに映えていました。このビルには、公共図書館、国立近代美術館、産業創造センター、映画館、多目的ホール、会議室、アトリエ、国立音響音楽研究所などが入っていますが、構造や設備を外に出したことにより、内部はフレキシブルな展示空間を実現しています。特に国立近代美術館は、ピカソ、マティス、シャガール、ミロ、ダリなどの作品をはじめとする100,000点以上の作品を所蔵し、金現代美術のコレクションとしては欧州最大、世界的にもニューヨーク近代美術館に次いで、第二の規模の美術館。見終わったとき、見応えの満足感を感じるとともに、とても楽しく、気持ちよく鑑賞できた覚えがあります。

  関西国際空港は、内外装はガラスが多く使われ、屋根は飛行機の翼をイメージした、なだらかな円弧状のカーブを描く形で、上空からみると「翼を休める鳥」を模した形に。1棟の建造物ですが、国際線と国内線の両方の運行に対応していて、年間2500万人の旅客処理能力があるそう。本館は下表の階層構造になっていて、垂直方向の移動だけで国内線と国際線を乗り継ぎできる導線になっています。また、国内線の出発・到着フロアの2階は、エアロプラザ、鉄道駅、立体駐車場とペデストリアンデッキで直結するなど、利用者のストレスが少ない同線を実現。その導線構造の設計は、さすがピアノ氏と思わせます。

  建て替える「東京海上日動ビル」は、これまで他に例のないレベルで国産木材を利用する計画。柱や床などの構造部分にも木材を取り入れ、「世界最大規模の木造ハイブリット構造」の高層オフィスを目指すと言います。建築家のなかには作品に顕著な特徴が見られる人もいますが、あえて特徴的なスタイルに拘らないピアノ氏。日本の木材を使って、どんな高層ビルを建てるのか、今からとても興味深い。完成は2028年度を予定。東京の建築に、そしてイタリア好き私としては個人的にも、大きな楽しみがひとつ加わりました。